月経前に悪化する皮疹の総まとめ ― 原因と鑑別、APD、避妊の選び方まで
「生理前になると毎回かゆみ・赤み・ブツブツがひどくなる」――その背景にはホルモン変動や、まれに自己免疫性プロゲステロン皮膚炎(APD)が関わることがあります。本稿は“まず知りたいこと全て”を1ページで整理しました。
はじめに:月経と皮膚の関係
排卵後の黄体期はプロゲステロンが優位になり、皮脂分泌や皮膚バリア、免疫反応に影響します。そのため、既存の皮膚疾患(湿疹・蕁麻疹・アトピーなど)が生理前に悪化することがあります。さらに、非常にまれですがAPD(自己免疫性プロゲステロン皮膚炎)のように「体内・外因性のプロゲスチン」に過敏反応を起こす病態があり、毎周期ほぼ同時期に皮疹が出現・増悪するのが特徴です。
症状と原因・鑑別
ホルモン変動による増悪
黄体期のホルモン変化で、かゆみ・紅斑・膨疹・にきびなどが強まることがあります。既存疾患の増悪であることが多く、周期性と生活誘因を丁寧に分けて把握するのがコツです。
APD(自己免疫性プロゲステロン皮膚炎)
内因性プロゲステロンまたは外因性プロゲスチンに対する過敏反応。蕁麻疹・湿疹・多形紅斑様病変・顔面/口唇の浮腫・まれにアナフィラキシーまで多彩です。月経前に悪化し、月経開始で軽快、さらに排卵抑制で予防できる所見が診断のヒントになります。
その他の鑑別(コリン性蕁麻疹・薬疹・慢性蕁麻疹など)
コリン性蕁麻疹は運動・入浴・緊張など体温上昇で誘発。周期性よりも誘因の有無が鍵です。新規薬剤内服後は薬疹も鑑別に。長く続く膨疹は慢性蕁麻疹の可能性もあります。
受診の目安と緊急のサイン
- 毎月ほぼ同時期に皮疹が出る/悪化する
- 市販薬や従来の外用・抗ヒスタミンで抑えきれない
- 発熱・呼吸苦・強いめまい・意識が遠のくなど全身症状(救急受診を検討)
診断と評価の進め方
① 症状日記と写真で“周期性”を可視化
発症日・持続・部位・かゆみ強度・入浴/運動/発汗との関係・薬や化粧品の使用を1〜3か月記録。スマホ写真で客観性が高まります。
② 診察と基本評価
皮疹の形・範囲・持続、内服・避妊歴(ピル・注射・IUDなど)を確認。必要に応じて一般血液検査やアレルギー評価を行います。
③ 治療的診断(排卵抑制に対する反応)
APDが疑わしい場合、排卵を抑える治療で症状が改善するかを見るのが実践的です。プロゲステロン皮内試験は標準化・再現性の課題があり、結果解釈に注意が必要です。
治療の考え方(対症~専門治療)
対症療法
第二世代抗ヒスタミン薬をベースに、必要に応じて外用/短期内服ステロイドを併用。かゆみと炎症を抑えます。
生活・スキンケア最適化
入浴・運動のタイミング調整、低刺激スキンケア、十分な睡眠とストレスケア。発汗や体温上昇が誘因の方は、運動前後のクールダウンやシャワーも有効です。
APDを疑う/難治例での専門治療
- 配合OC(エストロゲン+プロゲスチン)で排卵抑制し周期性再燃を抑える
- GnRHアゴニスト:反応不十分/難治例で検討
- オマリズマブ(抗IgE):蕁麻疹・血管浮腫優位での有効例あり
- プロゲステロン脱感作:不妊治療や希望する避妊法継続のために専門連携で実施
避妊と症状コントロールの相性
APD/プロゲスチン過敏では、避妊手段の選択が症状に影響します。ポイントは「排卵を止めると楽か」と「外因性プロゲスチンで悪化するか」の見極めです。
配合OC(低用量ピル)
排卵抑制により周期性の再燃を抑えるケースがあります。血栓リスクなど禁忌を確認し、種類/用法を調整します。
プロゲスチン単剤(内服・注射・インプラント)
外因性プロゲスチン過敏が主体の方では増悪する可能性。導入は慎重に。
レボノルゲストレルIUD
装着後に蕁麻疹・浮腫の症例報告があり、疑い例では適応を慎重に検討します。
銅IUD(非ホルモン)/ バリア法
ホルモンを含まず、プロゲスチン過敏の懸念がある方の選択肢になり得ます。避妊効果は使い方に依存します。当院ではやっていませんので専門施設にご紹介します)
難治例の拡張オプション
オマリズマブ併用や脱感作により、不妊治療の準備や希望する避妊法の継続を可能にする選択肢があります(当院ではやっていませんので専門施設にご紹介します)。
ライフステージ別の注意点
妊娠・授乳
妊娠で自然軽快する例もあれば悪化する例もあります。妊娠計画中は安全性を踏まえ、治療内容を見直します。
更年期以降
閉経で自然軽快が一般的。更年期治療ではプロゲステロン含有製剤の選択・用量に注意します。
受診前チェックリスト(ダウンロード推奨)
- 症状日記:発症日/持続/部位/強さ(0–10)/誘因(運動・入浴・発汗・ストレス)
- 写真:代表的な皮疹をスマホで撮影
- 薬・化粧品:開始時期と製品名、避妊法(OC/注射/IUD/インプラント)
- 既往歴:アレルギー、妊娠/出産歴、婦人科治療歴
よくある質問
Q1. 生理前だけ毎回出る蕁麻疹は受診すべき?
A. はい。周期性がある場合は評価の価値が高いです。APDを含む鑑別を行い、治療計画を立てます。
Q2. 検査で決め手はありますか?
A. 絶対的な単独検査は少なく、病歴(周期性)と排卵抑制への反応を重視します。
Q3. ピルで良くなる?悪くなる?
A. 排卵抑制で改善する方がいる一方、プロゲスチン単剤やレボノルゲストレルIUDで悪化する例もあります。個別最適が重要です。
Q4. 市販薬で様子見してもいい?
A. 一時的には可ですが、毎月再燃する場合は原因評価を。必要に応じて専門治療を提案します。
Q5. 妊娠・授乳中はどうする?
A. 症状と安全性のバランスを取りながら、最小限で効果的な治療を選びます。個別にご相談ください。
まとめ・ご予約
「毎月、決まった時期に悪化する」は大切なサインです。原因を見極め、避妊と症状コントロールを両立する最適解を一緒に探しましょう。