[相談室]子宮摘出のとき「卵巣も一緒に取りますか?」―45歳で考えるメリット・デメリット
結論:がん予防や痛み再発の抑制というメリットがある一方、外科的閉経による更年期症状・骨粗鬆症・心血管リスクなどのデメリットも。45歳では個々の病状と希望に合わせたオーダーメイド判断が重要です。
予防的卵巣摘出とは
子宮の良性疾患(筋腫・内膜症など)で子宮を摘出する際、卵巣に異常がなくても将来の卵巣がん予防目的で卵巣も切除する手術を「予防的卵巣摘出術(両側)」と言います。がんリスクは低下しますが、卵巣機能を失うことによる健康影響も伴います。
メリットとデメリット
メリット
- 卵巣がんリスクの大幅低下(将来の発生確率を大きく下げる)
- 再発病変・再手術の抑制が期待できる(内膜症や付属器病変の再燃リスク低減)
デメリット
- 外科的閉経:手術当日からホットフラッシュ、不眠、気分変調、性機能症状などが出やすい
- 骨量減少・骨粗鬆症:自然閉経より骨量低下が速く進みやすい
- 心血管リスク増加:特に50歳未満でHRT不使用の場合、冠動脈疾患・脳卒中・全死亡のリスクが上がる報告が日本産婦人科学会で提唱されました。
- 長期的な生活の質(QOL)低下の可能性(睡眠・気分・性機能・尿路・皮膚など)
※これらの多くは適切なHRTや生活習慣介入で軽減が期待できます。
内膜症が重い場合の考え方
重症の子宮内膜症では、卵巣を残すと疼痛や病変が再発しやすいという報告がある一方、卵巣を切除すると外科的閉経の代償が大きくなります。判断の軸は以下です。
- 病変の広がり・癒着の強さ・再発歴
- 疼痛の強度・鎮痛薬の効き
- 将来の希望(痛みの再発抑制をどこまで優先するか/QOLの重視)
第3の選択:卵巣温存+卵管切除
近年、卵巣がんの多くが卵管起源であることが示され、卵巣は残しつつ卵管のみを切除してリスクを下げる戦略が広がっています。平均リスクの女性で、卵巣機能を温存したい方に有力な選択肢です。
- 卵巣機能への悪影響は少ないとされる
- がん家族歴や遺伝性リスク(BRCA/Lynch)が高い場合は別途専門的な手術時期の検討が必要
術後ホルモン補充療法(HRT)のポイント
50歳未満で卵巣を切除する場合は、禁忌がなければHRTを前提に検討します。
- 更年期症状の軽減、骨密度の保護、心血管リスク低減に寄与
- 内膜症既往ではエストロゲン単剤は病変刺激の懸念があるため、黄体ホルモン併用や投与経路・用量を個別最適化
- 喫煙、高血圧、血栓症既往などリスク評価を行ったうえで開始・継続
45歳での意思決定チェックリスト
- 最優先は何か:痛み再発の抑制/がん不安の軽減/卵巣機能の維持
- 病変評価:内膜症の広がり・癒着・再発歴・疼痛の強さ(術者の所見を確認)
- 家族歴・遺伝リスク:卵巣・乳がんの家族歴の有無、必要なら遺伝カウンセリング
- 全身リスク:血圧・脂質・糖代謝・喫煙・体重・骨密度など
- HRTの可否:禁忌の有無/どのレジメンが適切か(内膜症考慮)
よくあるケース別の提案
ケースA:痛みが強く再発を繰り返す重症内膜症
子宮摘出+(必要なら)卵巣摘出も選択肢。ただし術後HRT設計をセットで検討し、骨・心血管の保護まで見据える。
ケースB:痛みは軽く、がん予防を意識しつつ卵巣機能は保ちたい
卵巣温存+卵管切除でリスク低減とQOLの両立を図る。将来の再評価計画も共有。
ケースC:家族歴が強い/遺伝性リスクが高い
ガイドラインに沿って両側卵管卵巣摘出のタイミングを専門医と検討。遺伝カウンセリングの活用を。
よくある質問(Q&A)
Q1. 卵巣を取ると寿命は延びますか?
A. 一律には言えません。がんリスクは下がる一方、50歳未満での卵巣摘出は心血管・全死亡リスク増加が報告されています。あなたの年齢・リスク・HRT可否で異なります。
Q2. 骨や血管のリスクは防げますか?
A. HRT+生活習慣(禁煙・運動・栄養)でリスク低減が期待できます。骨密度測定や脂質・血圧管理も併用します。
Q3. 卵管だけ取る方法は十分ですか?
A. 平均リスクの方では有力な選択肢です。卵巣機能を守りつつ卵巣がんリスク低下が期待できます。遺伝性高リスクでは別の戦略が必要です。
Q4. 内膜症があってもHRTは使えますか?
A. 使える場合が多いですが、黄体ホルモン併用など再燃予防の工夫が必要です。個別に設計します。
まとめ・ご予約
卵巣を取るか残すかは「何を一番守りたいか」で最適解が変わります。病状・家族歴・全身リスク・HRTの可否を整理し、納得のいく方針を一緒に決めましょう。
